研修の”やりっぱなし”を卒業する

——ATD APCで見えた、リーダーシップ開発の新基準
2025年10月28日〜30日、台湾・台北で開催されたATD Asia Pacific Conference(APC)に参加してきました。アジア太平洋地域のL&D(Learning & Development)プロフェッショナルが集まるこのカンファレンス、今年も刺激的なセッションが並んでいましたが、中でも印象に残ったのが「研修効果をどう測るか」と「AIをどう学習に組み込むか」というテーマです。
日本企業でも改めて考えるべき視点が多くありましたので、今日はそのエッセンスをお伝えします。
「研修をやった」では足りない時代
会場で紹介されたのが、AIA(アジア最大級の保険グループ)のリーダーシップ開発プログラム「SPARK」の事例です。
彼らが採用しているのは、Kirkpatrickモデルをベースにした4段階の効果測定。満足度から始まり、最終的にはビジネス成果まで、段階的に評価します。

ポイントは、L3・L4まで本気で測定しているところです。
AIA SPARKの実績として報告されていたのは、参加者の360度フィードバックで二桁%の改善、80%以上の受講者がデジタルコースとコーチングセッションを完走、そして現在のAIA CEOの85%以上がSPARK出身者——という驚くべき数字でした。
「研修をやりました」ではなく、「経営人材が育ちました」と言える状態。これが、CHROが目指すべきゴールラインだと改めて感じました。
AIが”サイドキック”になる
もう一つ印象的だったのが、AI(特にコーチングAI)の活用に関するセッションです。キーワードは「サイドキック(Sidekick)」——つまり、主役(学習者)を支える”相棒”としてのAIです。
✦ L&Dの主要課題に対応できる柔軟性がある
✦ グループでも個人でも、さまざまな技術環境で活用可能
✦ 人間によるコーチングを補完する新興プラクティス
✦ まず始めて、評価して、改善し続ける。自分自身がロールモデルになること
特に最後のメッセージが刺さりました。AIツールを「導入したら終わり」ではなく、自分たちも学び続けながら進化させていく姿勢——これはまさに、リーダーシップ開発そのものと同じ思想です。
日本の経営者・CHROへ
日本企業の多くは、まだL1(満足度アンケート)の測定で止まっています。
研修後に「良かったです」という感想を集めることに意味がないとは言いませんが、それだけでは経営への貢献を示すことができません。
今すぐ取り組めることとして、3つを提案します。
- 1測定設計を研修設計と同時に行う研修が終わってから「どう効果を測ろうか」では遅い。L3(行動変容)をどう確認するか、L4(業績)との連動をどう設計するかを、企画段階から組み込みましょう。
- 2AIをコーチングの”補完”として位置づけるAIコーチングは人間のコーチングを置き換えるものではなく、スケールとスピードを補う手段です。特に中間管理職層への継続的なサポートに組み合わせると効果的です。
- 3まず小さく始めて、測って、改善する完璧な設計を待つより、小さなパイロットからスタートする勇気が大切。SPARKも最初から完成形ではなかったはずです。
台湾の会場に集まったL&Dのプロたちが口を揃えて言っていたのは、「人材開発はコストではなく投資だ」ということ。
その投資対効果を経営言語で語れるCHROが、次の時代に求められるリーダーです。
あなたの会社の人材開発は、今どのレベルにありますか?
